ビーナスはどこえ消えたのか

1.序

ビーナス。手巻きムーブメントとして、バルジューと共に評価の高いムーブメントである。

倒産する以前の、旧ブライトリング社は殆どのクロノグラフにビーナスのムーブメントを採用した。

注:旧ブライトリング社は、1969年以降にはバルジューやブライトリング12等も多用するようになった。

しかし、今はもうビーナスというムーブメントは製造されていない。

ビーナスはどこへ行ったのだろうか?

 

2.ビーナスの役割

ランデロンやバルジューと同様に、ビーナスもエボーシュ連合傘下で、その枠内で活動した。

エボーシュ連合としては、連合内でのクロノグラフムーブメントの競争激化を鑑み、

廉価版のムーブメントは、ビーナス社とランデロン支社が、

中価格以上のムーブは主にビーナスとバルジューで主に製造することにした。

 

3.主なムーブメント

ビーナスの[廉価版]ムーブメントの代表は、ビーナス188(カム式)ビーナス170(ピラーホイール式)の2種類である。

ビーナスの[中価格]以上のムーブメントは、ビーナス150、175、178等がある。

#Venus140の位置づけは、私にはまだ判断できない。

Venus.188(ガラ)横2つ目型

ビーナスでもっとも生産された廉価版ムーブメント。

作動原理:カム式

動力伝達方式:キャリングアーム式

スライディングギア採用

チラネジ有り

 

永久秒針:9時位置

分積算計:3時位置

Venus.170 (1945年製)縦2つ目型

188と共に、ビーナスの量産型廉価版ムーブメントの双璧。

作動原理:ピラーホイール式

動力伝達方式:スイングピニオン式

スライディングギア採用

チラネジ有り

ピラーホイール式だが、スイングピニオン式のためコストが押さえられ、廉価版として作られた。

 

永久秒針:6時位置

分積算計:12時位置

Venus.150(1950年代製)

ビーナスの主力中級機。

作動原理:ピラーホイール式

動力伝達方式:キャリングアーム式

スライディングギア採用

チラネジ有り

150は2つ目である。時積算計の3つ目は152と称する。

ビーナス175と酷似する。

ビーナス150と175は、原理や構造は同じで、大きさだけが異なる。

ビーナス150の直径:29.32mm。

ビーナス175の直径:31.58mm。その差は2.26mm。

永久秒針:9時位置

分積算計:3時位置

Venus.178(1950年代製)

ビーナスの傑作機。

ブライトリングのナビタイマーも採用した。

作動原理:ピラーホイール式

動力伝達方式:キャリングアーム式

スライディングギア採用

チラネジ有り

175は2つ目である。時積算計付きの3つ目は178と称する。

直径がビーナス150より2.26mm大きい。

永久秒針:9時位置

分積算計:3時位置

分積算計:6時位置

Venus.196(1940〜50年代製)

ビーナスの小型ムーブメント。

LEONIDASにOEM供給し、LEONIDAS.196とも呼称される。

作動原理:ピラーホイール式

動力伝達方式:キャリングアーム式

スライディングギア採用

チラネジ有り

直径:23.7mm

永久秒針:6時位置

分積算計:無し

分積算計:6時位置

Venus188について補足

「Venus188は廉価」という説明は誤解を受けやすいので、ここで補足する。

確かに当時としてはクロノグラフムーブメントとしては廉価であったが、現在再生産するとしたら、おそらくETA7750よりも高額になると思われる、それほど精緻な作りだ。

ピラーホイールこそないが、「スライディングギア」は採用され、30分計の送りツメも、バネ状ではない。

Venus188は「本格派クロノグラフ」と言っても、過言ではない。

「廉価=駄物」と言う連想は誤りで、「非常に高額であったクロノグラフのなかでは、やや安い値段であった」と思っていただきたい。生産当時の値段は、クロノグラフとしては安くても、時計としては高額であった。

Venus188は、その後Valjoux7730という名前でも生産され(Valjoux7730銘での生産個数は極めて少ない)、さらにVljoux7733系のムーブメントへと進化していく。又、Vljoux7733はロシアのポレオッットにデッドコピーされPOLJOT.3133という名前で現在も生産されている。

Venus188は、後世の派生機械の基礎になった、さらに共産国にてデッドコピーされたりと、あたかも往年の名カメラのライカを連想させる。これらはVenus188の基本性能の高さを物語っていると言えよう。

 

4.新旧ムーブメントの比較

ビーナスにおいても、時代が新しくなるにつれて、コストダウンが図られてきている。ここで1950年代と1969年製造の2つの178を比較してみる。

注1:どちらもブライトリング ナビタイマーref.806のムーブメント。

注2:製造年は時計の製造した年であって、ムーブメントを製造した年ではない。「1969年製造」とは「1969年以前に製造」と同義。

1950年代製造のビーナス178

1969年製造のビーナス178

チラネジが無くなり、部品の造形が簡略化されている。耐震装置付加。

5.ビーナス150と175の比較

「似ている」と良く言われるビーナス150と175(又は178)。ならべて比較し、違いを見てみる。

ビーナス150

オールドタイプビーナス178

6.その評価

冒頭にも述べたが、ビーナスの評価は高く、旧ブライトリングも多用した。

近年、デッドストックムーブメントをケーシングし、復刻してクロノグラフとして売り出すことが流行している。

ビーナスのデッドストックムーブメントを使った復刻クロノは、バルジューを採用した復刻クロノと同様に人気は高く、入手するのが困難である。

 

7.ビーナスの行方

エボーシュ連合内のライバルであったバルジューは、エボーシュ連合がETAとなった後も、バルジューという名称を残している。

例:ETA Valjoux7750は、ムーブの基盤に[VAL]と刻印している。

しかし、ビーナスの名称はどこにも残っていない。

ビーナスはどこに行ったのか?

 

8.ビーナスの謎

ビーナスの高級ラインである175や178は1964年に生産終了した

さらに、ビーナスの主力ムーブメントであるビーナス188は1966年に生産終了し、1967年から1973年までは[バルジュー7730]という名称で製造された。

どうして、Venus188はValjoux7730になったのか?

ここで、同じエボーシュ連合内のバルジュー社に目を転じよう。

バルジュー社の主力ムーブメントの、バルジュー23やバルジュー72は1970年代に製造終了し、バルジュー7733と7736に切り替わった。

この、バルジュー7733とビーナス188を比較すると、バルジュー7733はビーナス188の発展コストダウン型ということが肯ける。

上記を鑑み、ビーナスはバルジューに吸収されてしまったのではないか?

 

ここで、ビーナス188とバルジュー7733を比較してみよう。

クロノグラフランナーの受けの形やその他の部品も、大量生産できるように大変部品の造形が簡略化されている。

しかし、部品の配置は同じである。

ビーナス188(ガラ)

バルジュー7733

9.終章(そしてビーナスの名は消えたが、系統は生き続ける)

『どうして、Venus188はValjoux7730になったのか?』と上の章で疑問を投げかけた。

実は、1966年にビーナス社は約40年の歴史に終止符を打ち、エボーシュ連合の下でValjoux銘の機械を生産するようになった。

Venus銘の機械は確かに1966年からは製造されていない。しかし、ビーナスの伝統はETAに残っていると言えよう。

では、ビーナスを吸収後のバルジューはどうなのか?

ビーナス吸収後は、ビーナスムーブの改良と生産に終始し、自社固有のVal.23や72の発展型は開発されなかった。

バルジューの名は確かにETAに残っている。

しかし、バルジューの伝統がETAに残っている、と言えるのだろうか?

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あなたは人目の、ビーナスが無性に欲しくなった方です(笑).
1999/10/23 ベータ版UP
1999/10/24 大幅改定
1999/11/4 Venus.19
6追加
2000/10/11 Venus.188の補足追加
2000/10/23 Venusの歴史修正


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